ミトコンドリア(右図)の研究には、現在第三の波が押し寄せています。1970年代の電子伝達系やクエン酸回路に関する研究、1990年代のアポトーシスやミトコンドリアDNAの研究に続く、2000年以降のミトコンドリア構成タンパク質の高次構造や、ミトコンドリアの動態(ダイナミクス)の研究です。このような領域の研究から様々な生理病態に関する予想外の知見や、斬新な創薬アイデアが提案されており、当研究室でもこのような流れのもと、ミトコンドリアの機能や動態に関わるいくつかの遺伝子に着目し、その詳細を網羅的かつ体系的に明らかにしようとしています。具体的には、1)脳や中枢神経系の発達(神経細胞やグリア細胞の分化・成熟)や機能維持におけるミトコンドリアの役割や、ミトコンドリア機能の破綻が精神疾患や神経発達症にどのように関与しているのかに関する研究、2)膵臓や脂肪、肺など末梢器官の発生や再生過程、あるいは組織のがん化におけるミトコンドリアの役割に関する研究を行っています。
神経精神疾患や慢性炎症疾患の分子病態を深く理解し、これらに基づいた全く違った視点からの創薬・育薬研究を展開するためには、既存の知見や技術を活用するだけでは十分ではありません。すなわち、これらの研究を加速的かつ破壊的に推進可能な、新しい薬理学ツールを開発するような研究も必要と考えます。そこで当研究室では、1に述べたようないわゆる科学の深化に寄与する研究を進めると同時に、このような新規技術の開発研究も行っています。具体的には、1)特定のミトコンドリアタンパク質の欠失によって多様な表現型異常を示すようになった、ヒトのミトコンドリア病に相当とする疾患モデル動物や、2)生着させたがん細胞/がん組織を外科的手術で取り除いた、いわゆるがんサバイバーのモデル動物、などの確立に関する研究や、3)様々な遺伝子改変手法を用いることで、生体内の酵素反応やタンパク質間相互作用をハイスループッドで検出できるような、薬理学的プローブを開発する研究です。